奈良県

よしのおんせん・もとゆ

吉野温泉・元湯

旅情溢れる温かな人情と心を癒す静けさ
世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」にある金峯山寺は、白鳳年間(七世紀末)に役行者(えんのぎょうじゃ)が開いた修験道場です。年間を通して参拝客や観光客で賑わう観光スポットですが、そのすぐ山の下に隠れるようにして吉野温泉元湯があります。金峯山寺からは数百メートルしか離れていませんが、直線的に結ぶ道が無いために、ロープウェイの下の方から迂回して行かなくてはなりません。途中から細い山の中の道になり、どんどん山の奥へと進んでいきます。しばらく森の中を突き進んでいくとやがて一軒の宿が見えてきます。約300年の歴史があるという老舗の温泉ですが、ひっそりと佇むように建つ秘湯の宿という印象です。静けさの漂う宿で、文人向けの逗留宿としても合いそうだなぁとの印象を受けましたが、そのイメージ通りかつて若き島崎藤村が失恋を癒すために訪れたこともあるそうです。玄関に入るとごはんのいい香りが漂っていました。そういえばちょうど昼前です。これから宴会のお客さんがやってきて賑わうのだそうです。素朴な宿ですが、雰囲気も良く静かに過ごせるのでとても人気があるようです。立ち寄りの入浴もできますが、予約制になっているので予め連絡しておきましょう。浴室は玄関前の階段を下りたところにありました。階段の下でサンダルに履き替えて浴室へと向かいます。脱衣所は棚にカゴが並んでいるだけの小ぢんまりとした素朴なものです。壁には温泉の由来なども書かれていました。浴室も小ぢんまりとしたタイプですが、ほどよい安堵感が味わえる落ち着いたものです。洗い場がいくつかあり、湯舟がひとつ、窓ガラスが大きく明るい雰囲気があります。湯舟は小ぢんまりとしたもので隅の小さな湯口からトロトロと湯が注がれています。湯はそのまま端の排水溝に溢れているので掛け流しになっているようです。それほど大きな湯舟ではないので、体を沈めると豪快に湯が溢れでていきます。湯は赤茶色に薄く濁っていて透明度は30センチほど、溢れた湯の通り道はガラス窓沿いに作られた小溝に流れていきますが、湯の成分により鮮やかなオレンジ色に染まっていました。ひっそりと佇む温泉ですが、とても自己主張の強い個性派ですね。湯舟の脇にはコップの被せられた蛇口があります。ひねると冷たい透明の水が出てきましたが飲んでみるとシュワーッとした炭酸の風味と薄く鉄臭さがありました。湯舟の湯も金気臭が漂っていて、鼻を通り抜ける重たい空気も嫌味がなくて心地よくなってきます。しばらく浸かっていると炭酸の成分により体の芯からあたたまり、汗が止まらなくなるほどです。窓越しに見える苔むした岩など、秘湯ムードは満点で本当に落ち着いて寛ぐことができました。是非ともまた訪れたいと思わせる、魅惑に満ちた温泉宿でした。
掲載: 2006/12/10
Data
  1. 所在地:奈良県吉野郡吉野町吉野山
  2. 入浴 :2005年1月
  3. 泉質 :単純二酸化炭素冷鉱泉(低張性、中性)
  4. 形態 :温泉旅館 男女別
  5. 効能 :神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺など
  6. 露天風呂:なし
  7. 開放度:☆☆
  8. 清潔度:☆☆☆
  9. 気軽度:☆
  10. 穴場度:☆☆☆
  11. 秘湯度:☆☆☆
  12. 景色 :☆☆☆
  13. 総合評価:☆☆☆☆